2024年度法学部「租税法
担当 増井良啓

概要
みなさんは、日本の財政赤字が巨大なのに増税には抵抗があることを知っているでしょう。また、就職や結婚、住宅取得や相続といった人生の節目で税金が関係することや、企業の経済活動にとって租税上の考慮が不可欠であることも、聞いたことがあるでしょう。しかし、税制について何となく知っていたり聞いていたりしたことがあっても、現行課税ルールがどのような論理でできているか、あるいは、契約をかわしたり事業を行ったりするさいに租税がどのように意思決定に影響するか、自分の言葉できちんと説明できますか。この授業では、租税制度の法的構造を体系的に分析します。それによって、今後の税制改革のあり方や私的取引との交錯について、自分の頭で考えるための力を養います。

教科書

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税制調査会・わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―(2023)

過去問
この授業を受講することでどのような力が身につくかをあらかじめイメージしていただくために、2021年7月に実施した定期試験問題の一部を掲げておきましょう。なお、本年度に同じ問題を出すわけではもちろんありませんし、授業内容も(この間すこしは)進化しています(少なくともそうなるよう努力しています)。

第2問 次の挿話を読み、下の問いに答えよ。
【挿話】
あるところに、一郎と次郎の兄弟が住んでいました。ふたりはいつものように森に出かけて、池で釣りをしていました。すると、何ということでしょう。池から水煙がたちあがり、そこに神々しい人魚がすっくと立っているではありませんか。
人魚はいいました。「ここに金の斧と銀の斧がある。金の斧は、それを持つ者に対して永遠に、毎年1000万円の現金収入をもたらす。銀の斧は、それを持つ者に対して今から1年後に1回だけ現金収入をもたらすのであるが、その現金収入は2億2000万円である確率が50%で、0円である確率が50%だ。天からの賜りものとして、この斧が汝らに授けられるであろう。」
一郎と次郎はいいました。「ああ、すばらしい。」
人魚はいいました。「では、汝らおのおの、みずから好む斧を選べ。」
一郎はいいました。「私は金の斧を選びます。」
次郎はいいました。「私は銀の斧を選びます。」
こうして、一郎は金の斧を、次郎は銀の斧を、それぞれ取得しました。
【問い】
(1)一郎の課税はどうなるか?
(2)次郎の課税はどうなるか?
(3)一郎が5年後に金の斧を第三者に有償譲渡したら課税はどうなるか?
なお、いずれの問いについても、日本の現行法が適用されるものとし、かつ、人魚の発言が現実化することを前提とせよ。利子率は10%と仮定すること。