租税法レポートの講評

2002年8月6日 増井良啓

1.レポートの課題

税制調査会『あるべき税制の構築に向けた基本方針』(2002年)から任意の論点を選び、その内容を分析し、各界の意見を調査したうえで、自説を展開して下さい。1万字程度、提出は7月31日まで。

2.テーマ選択の分布

全部で56通のレポートが提出されました。その中で比較的多くの人が選んだテーマが以下です。

個人所得税の基本構造(とくに諸控除の見直し) 13件

付加価値税(消費税)の改革論 11件

酒税とたばこ税の問題 8件

このほか、税制改革一般、法人税(株主との関係や中小企業、公益法人等)、相続税・贈与税、国際課税、地方税、環境税、道路特定財源、源泉徴収制度、納税者番号制度に関するものなどがありました。

3.全体的なコメント

講義開始から提出まで短い期間であったにもかかわらず、それぞれに力のこもったレポートが寄せられました。中でも特に読みごたえのあるレポートがいくつかあり、うれしく感じました。それらの優れたレポートには、共通する特色があります。すなわち、講義の内容をしっかり消化し、『基本方針』の該当部分についてきちんと分析したうえで、明確な問題意識にそって豊富なデータを論理的に配列し、自らの主張を説得的に展開しています。たとえばあるレポートは、少子高齢化対策こそが現在の日本に最も必要なことであるという認識から出発し、配偶者控除の見直しや課税単位に関する議論に新たな光をあて、『基本方針』の示した3つの選択肢を詳しく検討したうえで、結論として「人的控除は基礎控除・配偶者控除・扶養控除の3つで構成し、扶養控除の対象から老齢親族を除く」ことを主張しています。この議論の前提認識や、結論に至るプロセスについては、もちろん異論がありえないわけではありません。しかし、自分の頭で考え、今後の政策について具体的な方向を導いており、「論を成す」ことに成功しています。講義で何度もいったように、基本問題について納得のいくところまで理解し論理的に考えぬくことこそが大切です。そこで、そのような思考の足跡の認められるレポートには、高い評価を与えました。成績の良かった人は、自信をもってさらに自らの力を伸ばしていってください。

これに対し、それなりに勉強した形跡はうかがわれるものの、参考書等から転載した知識の羅列にとどまっており、ましてや「論を成す」に至っていないレポートは、残念ながら低い評価の対象とせざるを得ませんでした。インターネットを通じてさまざまな情報を容易に収集できる現在こそ、単に情報を「切り貼り」するのでなく、自分の頭で情報を論理的に構成する力が求められます。成績の良くなかった人は、この機会に自分のレポートのどこが十分でなかったかを反省して、将来に活かしてください。