(1)この講義のポイント
経済活動はグローバルに展開していますが、税制はローカルであり各国まちまちです。その結果、同一の経済活動に対して、複数の国が何度も課税したり、どの国も課税しなかったりする現象が生じます。この問題に対処するため、19世紀末から、国内法と条約の両面で、さまざまな工夫がなされてきました。これが、国際課税または国際租税法とよばれる分野です。この授業では、国際租税法について体系的に学びます。
(2)3年生や4年生の皆さんがこの講義を履修することの意義
課税は、国際取引にとってきわめて重要です。また、国際課税は、それ自体がダイナミックな面白い領域です。しかし、多くの人が、「学生時代に税金のことを勉強しなかったからあとで苦労した」といいます。おそらく、学生時代には国際課税の重要性に気がつかず、卒業した後になって「しまった、勉強しておけばよかった」と思うのでしょう。授業では、憲法や民法などの基本科目との関係を重視し、国際取引に関する課税ルールの基礎を、最も初歩のところから反復練習します。学習の目標は、現行ルールの骨格を理解し、条文を読む力を身につけることです。履修される皆さん1人1人がこの目標に到達するための手助けが、この講義の目的です。
(3)教科書
水野忠恒編著『国際課税の理論と課題』(改訂版1999年)を購入してください。必要な法令については、コピーして配付する予定です。よい参考書がたくさん出版されていますので、それらについては、随時説明します。学習のためには、村井正編『教材国際租税法T』(2001年)に、事例と設問が付されています。
(4)進行予定
4部構成とし、前期にTとUを、後期にVとWを、講義します。
T 序説
U 対内取引
V 対外取引
W 租税条約
参加者の「顔の見える」対話型の授業を心がけますので、意欲のある積極的な方の参加を歓迎します。あたかもらせん階段を登るように、毎回、基礎知識を順に積み上げるよう工夫します。したがって、毎回きちんと勉強する人は、力がついていくことを実感すると思います。これに対し、「一夜漬け」で試験だけを受け、単位を取得しようと試みても、成功の確率は全くないものと覚悟してください。
(5)成績評価
前期末と後期末に試験を行います。
(6)2001年度の試験問題(過去問)
2001年9月試験問題(前期末)
第1問(30分相当) 日本の法人税法上、内国法人は、「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」と定義されています(2条3号)。これを改正し、「国内に実質的な管理支配の場所を有する法人」としたならば、何が変わりますか。この改正は望ましいですか。
第2問(30分相当) ある外国企業の社長が、日本市場への進出を計画しています。その社長から、次の質問がきています。どう答えますか。
「私は、日本の皆さんに、わが社のすばらしい乗用車を売り込みたい。まずは、市場の状況を調査するために、5人くらい社員を送り込もう。状況がよさそうだったら、東京に事務所を設け、近辺の顧客をつかむんだ。車はマレーシアで製造し、船で東京に輸送する。顧客のアフタケアもやろう。必要なら、日本に子会社をつくってもいい。しかし、心配なのは税金だ。日本での課税関係は、いったいどうなるんだ。」
2002年2月試験問題(後期末)
世の中にはどうして、タックスヘイブンが存在するのだろうか。この授業で学んだことをもとに、あなたの考えを自由に述べて下さい。私たちが今後どうすべきかについての提言も歓迎します。
2002年3月試験問題(再試験)
日本にはタックスヘイブン対策税制が存在する。それなのに、なぜ、移転価格税制が必要なのか。具体例をあげて説明せよ。
(7)2002年9月試験問題(前期末)
第1問(30分相当)
現行所得税法7条は、つぎのように定めています。
「所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に掲げる所得について課する。・・・二 非永住者 第161条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得・・・及びこれ以外の所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたもの」
これを改正し、
「所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に掲げる所得について課する。・・・二 非永住者 すべての所得」
としたならば、何が変わりますか。この改正は望ましいですか。
第2問(30分相当)
米国メジャーリーグで活躍する野球選手タローは、カリフォルニア州法にもとづいてT社を設立した。T社は、日本のJ社と契約を締結し、J社が日本国内でタローのオリジナルグッズを販売する場合、その売上高の10%を受け取ることとした。T社はまた、「タローのページ」というウェブサイトを開設し、タローの在日ファンクラブ会員が有料で、インターネットを通じ、「野球を100倍楽しむ方法」などのアドバイスをタロー本人から受けることができるものとした。
この事例における日本での課税関係はどうなりますか。必要に応じ事実を補いつつ、国内法の適用関係を論じてください。日米租税条約の存在は無視してかまいません。
(8)リンク
OECDの「有害な税の競争」関係文書(とくに1998年報告書)
税制調査会「平成15年度における税制改革についての答申」(中でも五5国際課税の部分)