2009年度冬学期法科大学院「租税法」(増井良啓)―正式のシラバスはこれですが、履修計画をたてている方のために、追加でちょっと情報提供します(2009.02.16)(2009.05.03にリンクを追加)
法科大学院で学ぶほとんどのみなさんは、これまで租税法の世界になじみがなく、そもそもどのような科目なのか予測がつかないのではないかと思います。というか、租税法という科目を受講してどのような力が身につくのか、すぐにはピンとこないのではないでしょうか。実は、学生時代の私もそうでした。
10月からのこの授業では、所得税法を中心に、じっくりと租税法の基本を勉強します。その中核は、個人の「所得(income)」という経済的なプリズムを用いて、いろいろな私的取引をとらえなおす作業です。契約法や不法行為法、物権法などの学習と密接に関連するばかりでなく、市場で生じる取引に対して「ひと味違う」ものの見方を身につけることに役立ちます。ひと味違うというのは、金銭の時間的価値(time value of
money)とかリスク(risk)とか人的資本(human
capital)とか消費(consumption)とかいったような、いくつかの基礎的な観念を用いつつ現実の取引事例に接近するからです。その意味で、知的にスリリングな体験になります。
租税法は理論的に面白いだけでなく、法律家の仕事にとって実際的にも大きな意味を持っています。所得税法が私たちの生活になじみの深いことはいうまでもなく、みなさんも将来、ほとんど必ず、自分の所得税をめぐって税務署と交渉をもつことになるでしょう。また、この授業の後半では法人税法の初歩を概観し、会社のからむ取引について課税関係を分析します。それによって、「法人成り」をはじめとする閉鎖的同族会社に特有の問題から、上場会社の活動に伴って生ずる問題まで、日本の経済社会で起きていることを理解しようとするのです。そういうわけで、この授業は会社法とも深く関係します。なお、最後の数コマでは全体の復習の意味で、租税法の解釈と適用に関する基礎理論を扱いますが、このあたりになりますと、それまでしっかり授業に参加してきた方は、簡単な取引事例をみて、「ああ、ここに所得課税上の問題がある!」といった発言をして友だちを驚かせる(?)ようになります。
これまで租税法に全く触れたことのない方にとっては、この授業は、法科大学院で開講している租税法関係のほかの授業に積極的に参加するための足がかりになるでしょう。外国の大学でも租税法関係の授業は多数提供されています(リンクはここ)。
最後に、過去の授業用に書いたいくつかのコラムをアップしておきます。どんなかんじのことをやっているか、関心がでてきたらのぞいてみてください。あとは、教室でお目にかかりましょう。
耐用年数と中小企業の経営(このコラムを書いたあと減価償却制度は大きく改正されました)
9・11以降の国際的寄付税制
寄付行動におけるimage motivation
相続財産の評価減と将来賃料債権の関係