所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための

日本国とアイルランドとの間の条約

〔昭和四十九年十一月二十日号外条約第十二号〕

 

日本国政府及びアイルランド政府は、所得に対する租税に関し、二重課税を回避し及び脱税を防止するための条約を締結することを希望して、次のとおり協定した。

 

第一条

 この条約は、一方又は双方の締約国の居住者である者に適用する。

第二条

1 この条約の対象である租税は、次のものとする。

(a)  アイルランドにおいては、

(@)   所得税(付加税を含む。)

(A)   法人利潤税

(b)  日本国においては、

(@)   所得税

(A)   法人税

(B)   住民税

2 この条約は、現行の租税に加えて又はこれに代わつてこの条約の署名の日の後にいずれか一方の締約国において課される租税であつて現行の租税と同一の又はこれと実質的に類似するもの(国税であるか地方税であるかを問わない。)についても、また、適用する。両締約国の権限のある当局は、それぞれの国の税法について行われた改正を相互に通知する。

3 この条約は、船舶又は航空機を運用する企業に関しては、第九条2に規定する租税についても、また、適用する。

第三条

1 この条約において、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、

(a)  「日本国」とは、地理的意味で用いる場合には、日本国の租税に関する法令が施行されている領域をいう。

(b)  「一方の締約国」及び「他方の締約国」とは、文脈により、日本国又はアイルランドをいう。

(c)  「国民」とは、

(@)   アイルランドに関しては、アイルランドのすべての市民並びにアイルランドにおいて施行されている法令によつてその地位を与えられたすべての法人、組合及び団体をいう。

(A) 日本国に関しては、日本国の国籍を有するすべての個人並びに日本国の法令に基づいて設立され又は組織されたすべての法人及び法人格を有しないが日本国の租税に関し日本国の法令に基づいて設立され又は組織された法人として取り扱われるすべての団体をいう。

(d)  「者」には、法人及び法人以外の団体を含む。

(e)  「法人」とは、法人格を有する団体又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいう。

(f)  「一方の締約国の企業」及び「他方の締約国の企業」とは、それぞれ一方の締約国の居住者が営む企業及び他方の締約国の居住者が営む企業をいう。

(g)  「日本国の租税」とは、日本国において課される租税で、前条1又は2の規定によつてこの条約が適用されるものをいい、「アイルランドの租税」とは、アイルランドにおいて課される租税で、同条1又は2の規定によつてこの条約が適用されるものをいう。

(h)  「租税」とは、文脈により、日本国の租税又はアイルランドの租税をいう。

(@) 「権限のある当局」とは、日本国については、大蔵大臣又は権限を与えられたその代理者をいい、アイルランドについては、歳入委員会又は権限を与えられたその代理者をいう。

(j)  「国際運輸」とは、一方の締約国の企業が運用する船舶又は航空機による運送(船舶又は航空機が他方の締約国内の地点の間においてのみ運用される場合の運送を除く。)をいう。

2 一方の締約国によるこの条約の適用上、特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約の対象である租税に関する当該一方の締約国の法令上有する意義を有するものとする。

第四条

1 この条約の適用上、「一方の締約国の居住者」とは、当該一方の締約国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、管理の場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう。この用語には、当該一方の締約国内の源泉から所得を取得する場合に限り当該一方の締約国において課税される個人を含まない。

2 1の規定によつて双方の締約国の居住者となる個人については、権限のある当局は、合意により、この条約の適用上その個人が居住者であるとみなされる締約国を決定する。

3 1の規定によつて双方の締約国の居住者となる者で個人以外のものは、その者の本店又は主たる事務所が存在する締約国の居住者とみなす。

第五条

 この条約に基づき所得について一方の締約国の租税が軽減される場合において、他方の締約国において施行されている法令により、個人が、当該所得の全額についてではなく当該所得のうち当該他方の締約国に送金され又は当該他方の締約国内で受領した部分について租税を課されることとされているときは、この条約に基づき当該一方の締約国において認められる租税の軽減は、当該所得のうち当該他方の締約国に送金され又は当該他方の締約国内で受領した部分についてのみ適用する。

第六条

1 この条約の適用上、「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であつて企業がその事業の全部又は一部を行つているものをいう。

2 「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。

(a)  管理所

(b)  支店

(c)  事務所

(d)  工場

(e)  作業場

(f)  鉱山、採石場その他天然資源を採取する場所

(g)  建築工事現場又は建設若しくは組立ての工事で、十二箇月を超える期間存続するもの

3 「恒久的施設」については、次のことは、含まれないものとする。

(a)  企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。

(b)  企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。

(c)  企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。

(d)  企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。

(e)  企業のために広告、情報の提供、科学的調査その他これらに類する準備的又は補助的な性質の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。

4 一方の締約国の企業は、他方の締約国内で第十八条にいう芸能人又は運動家の役務を提供する活動を行う場合には、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。

5 一方の締約国内で他方の締約国の企業に代わつて行動する者(6の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)は、次のいずれかの場合には、当該一方の締約国内の恒久的施設とされる。

(a)  その者が、当該一方の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する場合。ただし、その者の行動が当該企業のために物品又は商品を購入することに限られる場合は、この限りでない。

(b)  その者が、当該企業に属する物品又は商品の在庫で通常これにより当該企業に代わつて注文に応ずるためのものを当該一方の締約国内に保有する場合

6 一方の締約国の企業は、仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人でこれらの者としての業務を通常の方法で行うものを通じて他方の締約国内で事業活動を行つているという理由のみでは、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされることはない。

7 一方の締約国の居住者である法人が、他方の締約国の居住者である法人若しくは他方の締約国内で恒久的施設を通じ若しくは通じないで事業を行う法人を支配し、又はこれらに支配されているという事実のみによつては、いずれの一方の法人も、他方の法人の恒久的施設であることとはならない。

第七条

1 不動産から生ずる所得に対しては、当該不動産が存在する締約国において租税を課することができる。

2 「不動産」の定義は、当該財産が存在する締約国の法令によるものとする。不動産には、いかなる場合にも、不動産に附属する財産、農業又は林業に用いられている家畜類及び設備、不動産に関する一般法の規定の適用がある権利、不動産用益権並びに鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取の権利の対価として料金(その金額が確定しているかどうかを問わない。)を受け取る権利を含む。船舶及び航空機は、不動産とはみなさない。

3 1の規定は、不動産の直接使用、賃貸その他のすべての形式による使用から生ずる所得について適用する。

4 1及び3の規定は、企業の不動産から生ずる所得及び自由職業を行うために使用される不動産から生ずる所得についても適用する。

第八条

1 一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行わない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行う場合には、その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内で事業を行う場合には、当該恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行い、かつ、当該恒久的施設を有する企業と、全く独立の立場で、取引を行う別個のかつ分離した企業であるとしたならば、当該恒久的施設が取得したとみられる利得が、各締約国において当該恒久的施設に帰せられるものとする。

3 恒久的施設の利得を決定するに当たつては、経営費及び一般管理費を含む費用でその恒久的施設のために生じたものは、その恒久的施設が存在する締約国内で生じたか他の場所において生じたかを問わず、損金に算入することを認められる。

4 2の規定は、恒久的施設に帰せられるべき利得を企業の利得の総額の当該企業の各構成部分への配分によつて決定する慣行が一方の締約国において行われている場合には、その締約国が租税を課されるべき利得をその慣行とされている配分の方法によつて決定することを妨げるものではない。ただし、用いられる配分の方法は、その方法によつて得た結果がこの条に定める原則に適合するようなものでなければならない。

5 恒久的施設が企業のために行つた物品又は商品の単なる購入を理由としては、いかなる利得も、その恒久的施設に帰せられることはない。

6 1から5までの規定の適用上、恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方法によつて決定する。ただし、別の方法を用いることについて正当な理由がある場合は、この限りでない。

7 他の条で別個に取り扱われている種類の所得が企業の利得に含まれる場合には、当該他の条の規定は、この条の規定によつて影響されることはない。

第九条

1 一方の締約国の企業が船舶又は航空機を国際運輸に運用することによつて取得する利得については、他方の締約国において租税を免除する。

2 一方の締約国の企業は、船舶又は航空機を国際運輸に運用することにつき、アイルランドの企業である場合には日本国における事業税、日本国の企業である場合には日本国における事業税に類似する租税でアイルランドにおいて今後課されることがあるものを免除される。

3 1及び2の規定は、共同計算、共同経営又は国際経営共同体に参加していることによつて取得する利得についても、また、適用する。

第十条

(a)  一方の締約国の企業が他方の締約国の企業の経営、支配若しくは資本に直接若しくは間接に参加している場合又は

(b)  同一の者が一方の締約国の企業及び他方の締約国の企業の経営、支配若しくは資本に直接若しくは間接に参加している場合

であつて、そのいずれの場合においても、双方の企業の間に、その商業上又は資金上の関係において独立の企業の間に設けられる条件と異なる条件が設けられ又は課されているときは、その条件がないとしたならば一方の企業の利得となつたとみられる利得であつてその条件のために当該一方の企業の利得とならなかつたものに対しては、これを当該一方の企業の利得に算入して租税を課することができる。

第十一条

1 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 1の配当に対しては、これを支払う法人が居住者である締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、(a)及び(b)の規定に従つて制限される。

(a)  アイルランドの居住者である法人が日本国の居住者に支払う配当に対しては、アイルランドの付加税を免除する。

(b)  日本国の居住者である法人がアイルランドの居住者に支払う配当

であつて、当該アイルランドの居住者にアイルランドの租税が課されるものに対しては、日本国において十五パーセントを超える率の租税を課することができない。ただし、当該アイルランドの居住者が、当該配当の支払の日に先立つ六箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある全株式の少なくとも二十五パーセントを所有する法人である場合には、当該配当に対しては、日本国において十パーセントを超える率の租税を課することができない。

この2の規定は、配当に充てられる利得についての当該法人に対する課税に影響を及ぼすものではない。

3 この条において、「配当」とは、株式その他利得の分配を受ける権利(信用に係る債権を除く。)から生ずる所得及びその他の持分から生ずる所得であつて分配を行う法人が居住者である締約国の税法上株式から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいう。

4 1及び2の規定は、一方の締約国の居住者である配当の受領者が、その配当を支払う法人が居住者である他方の締約国内にその配当の支払の基因となつた株式その他の持分と実質的に関連する恒久的施設を有する場合には、適用しない。この場合には、第八条の規定を適用する。

5 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国から利得又は所得を取得する場合には、当該他方の締約国は、その法人が当該他方の締約国の居住者でない者に支払う配当及びその法人の留保所得については、これらの配当及び留保所得の全部又は一部が当該他方の締約国内で生じた利得又は所得から成るときも、当該配当に対していかなる租税をも課することができず、また、当該留保所得に対して留保所得税を課することができない。

第十二条

1 一方の締約国内で生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 1の利子に対しては、当該利子が生じた締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、当該利子の金額の十パーセントを超えないものとする。

3 この条において、「利子」とは、公債、債券又は社債(担保の有無及び利得の分配を受ける権利の有無を問わない。)その他のすべての種類の信用に係る債権から生じた所得及びこのような債権について償還された金額のうち融通された金額を超える部分並びにその他の所得でそれが生じた締約国の税法上貸付金から生ずる所得と同様に取り扱われるものをいう。

4 1及び2の規定は、一方の締約国の居住者である利子の受領者が、他方の締約国内に恒久的施設を有する場合において、その利子を生じた債権が当該恒久的施設を通じて行われる事業と実質的に関連を有しているときは、適用しない。この場合には、第八条の規定を適用する。

5 利子は、その支払者が一方の締約国又はその地方公共団体若しくは居住者である場合には、その締約国内で生じたものとされる。ただし、利子の支払者(一方の締約国の居住者であるかどうかを問わない。)が一方の締約国内に恒久的施設を有する場合において、その利子の支払の基因となつた債務が当該恒久的施設について生じ、かつ、その利子を当該恒久的施設が負担するときは、その利子は、当該恒久的施設が存在する当該一方の締約国内で生じたものとされる。

6 支払者と受領者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、支払われた利子の金額が、その支払の基因となつた債権を考慮する場合において、その関係がないとしたならば支払者及び受領者が合意したとみられる金額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる金額についてのみ適用する。この場合には、支払われた金額のうち超過分に対し、この条約の他の規定に妥当な考慮を払つた上、各締約国の法令に従つて租税を課することができる。

第十三条

1 一方の締約国内で生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 1の使用料に対しては、当該使用料が生じた締約国において、その締約国の法令に従つて租税を課することができる。その租税の額は、当該使用料の金額の十パーセントを超えないものとする。

3 この条において、「使用料」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受け取るすべての種類の支払金をいう。

4 1及び2の規定は、一方の締約国の居住者である使用料の受領者が、他方の締約国内に恒久的施設を有する場合において、その使用料を生じた権利又は財産が当該恒久的施設を通じて行われる事業と実質的に関連を有しているときは、適用しない。この場合には、第八条の規定を適用する。

5 支払者と受領者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、支払われた使用料の金額が、その支払の基因となつた使用、権利又は情報を考慮する場合において、その関係がないとしたならば支払者及び受領者が合意したとみられる金額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる金額についてのみ適用する。この場合には、支払われた金額のうち超過分に対し、この条約の他の規定に妥当な考慮を払つた上、各締約国の法令に従つて租税を課することができる。

第十四条

1 第七条2に定義する不動産の譲渡から生ずる収益に対しては、当該不動産が存在する締約国において租税を課することができる。

2 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設の事業用資産の一部をなす財産(不動産を除く。)又は一方の締約国の居住者が自由職業を行うため他方の締約国において使用することができる固定的施設に係る財産(不動産を除く。)の譲渡から生ずる収益(単独に若しくは企業全体とともに行われる当該恒久的施設の譲渡又は当該固定的施設の譲渡から生ずる収益を含む。)に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。ただし、一方の締約国の居住者が国際運輸に運用する船舶又は航空機及びこれらの船舶又は航空機の運用に係る財産(不動産を除く。)の譲渡によつて取得する収益については、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

3 1及び2に規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益については、譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課することができる。

第十五条

1 一方の締約国の居住者が自由職業その他これに類する独立の活動に関して取得する所得に対しては、その者が自己の活動を遂行するために通常使用することができる固定的施設を他方の締約国内に有しない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。その者がそのような固定的施設を有する場合には、当該所得のうち当該固定的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 「自由職業」には、特に、学術上、文学上、美術上及び教育上の独立の活動並びに医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動を含む。

第十六条

1 次条及び第十九条から第二十二条までの規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国の居住者が勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、その勤務が他方の締約国内で行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。勤務が他方の締約国内で行われる場合には、その勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

2 1の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が他方の締約国内で行う勤務について取得する報酬に対しては、次の(a)から(c)までのことを条件として、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

(a)  その報酬の受領者が当該課税年度を通じて合計百八十三日を超えない期間当該他方の締約国内に滞在すること。

(b)  その報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われること。

(c)  その報酬が当該他方の締約国内に雇用者の有する恒久的施設又は固定的施設によつて負担されないこと。

3 1及び2の規定にかかわらず、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶又は航空機において行われる勤務に係る報酬に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。

第十七条

 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

第十八条

 第十五条及び第十六条の規定にかかわらず、演劇、映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家その他の芸能人及び運動家がこれらの者としての個人的活動によつて取得する所得に対しては、その活動が行われた締約国において租税を課することができる。

第十九条

1 次条2の規定が適用される場合を除くほか、過去の勤務につき一方の締約国の居住者に支払われる退職年金その他これに類する報酬及び一方の締約国の居住者に支払われる保険年金に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

2 「保険年金」とは、適正かつ十分な対価に応ずる給付を行う義務に基づき、終身又は特定の若しくは確定することができる期間中、所定の時期において定期的に支払われる所定の金額をいう

第二十条

(a) 政府の職務の遂行として一方の締約国又はその地方公共団体に提供される役務につき、個人に対し、当該一方の締約国若しくはその地方公共団体によつて支払われる報酬(退職年金を除く。)に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

(b)  もつとも、当該役務が他方の締約国において提供され、かつ、そのような報酬の受領者が次の(@)又は(A)に該当する当該他方の締約国の居住者である場合には、その報酬に対し、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

(@)   当該他方の締約国の国民

(A) 専ら当該役務を提供するため当該他方の締約国の居住者となつた者でないもの

(a)   一方の締約国又はその地方公共団体に提供される役務につき、個人に対し、当該一方の締約国若しくはその地方公共団体によつて支払われ、又は当該一方の締約国若しくはその地方公共団体によつて設立された基金から支払われる退職年金に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。

(b)  もつとも、そのような退職年金の受領者が他方の締約国の国民であり、かつ、当該他方の締約国の居住者である場合には、その退職年金に対し、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

3 一方の締約国又はその地方公共団体が行う営業又は事業に関連して提供される役務につき支払われる報酬及び退職年金については、第十六条から前条までの規定を適用する。

第二十一条

 専ら教育又は訓練を受けるため一方の締約国内に滞在する学生又は事業修習者であつて、現に他方の締約国の居住者であり、又はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であつたものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付又は所得については、当該一方の締約国の租税を免除する。ただし、給付については、それが当該一方の締約国外から支払われるものである場合に限るものとし、所得については、それが当該一方の締約国内で提供される人的役務について受け取るものであつて、一課税年度において六〇万円又はアイルランド・ポンドによるその相当額を超えないものである場合に限る。

第二十二条

1 大学、学校その他の教育機関において教育を行うため一方の締約国を訪れ、二年を超えない期間滞在する教授又は教員であつて、現に他方の締約国の居住者であり、又は訪れる直前に他方の締約国の居住者であつたものは、その教育に係る報酬につき、当該一方の締約国において租税を免除される。

2 一方の締約国からの個人であつて、政府又は宗教、慈善、学術、文芸若しくは教育に関する団体から研究を主たる目的とする交付金、手当又は奨励金を受領する者として、二年を超えない期間他方の締約国内に一時的に滞在するものは、その交付金、手当又は奨励金につき、当該他方の締約国において租税を免除される。

第二十三条

 一方の締約国において生ずる他方の締約国の居住者の所得で前諸条に明文の規定がないものに対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

第二十四条

1 日本国内の源泉から生ずる所得につき、日本国の法令に基づき、かつ、この条約に従つて直接に又は源泉徴収によつて納付される日本国の租税は、アイルランド外の領域において納付される租税をアイルランドの租税から控除することに関するアイルランドの法令の規定及びこれらの規定について今後行われる改正でこれらの規定の原則に影響を及ぼさないものに従い、その所得について納付されるアイルランドの租税から控除する。その控除を行うに当たり、その所得が、日本国の居住者である法人が支払う通常の配当である場合には、その配当について納付される日本国の租税のほかに、当該法人がその利得について納付する日本国の租税を考慮に入れるものとし、その所得が、優先株式に対して支払われる配当であつて優先権に係る固定率部分と利得の追加分配部分との双方を含むものである場合には、当該配当のうち当該固定率部分を超える部分についてのみ、当該法人がその利得について納付する日本国の租税を考慮に入れる。

2 日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する日本国の法令に従い、

(a)  日本国の居住者がこの条約の規定に従つてアイルランドにおいて租税を課される所得(配当を除く。)をアイルランドにおいて取得するときは、その所得について納付されるアイルランドの租税の額は、その居住者に対して課される日本国の租税から控除する。ただし、その控除の額は、日本国の租税の額のうちその所得に対応する部分を超えないものとする。

(b)  アイルランドにおいて生ずる所得が、アイルランドの居住者である法人がその議決権のある株式又はその発行した全株式の少なくとも二十五パーセントを所有する日本国の居住者である法人に対して支払う配当である場合には、日本国の租税からの控除を行うに当たり、当該配当を支払う法人がその利得について納付するアイルランドの租税を考慮に入れる。

(c)  (b)に規定する控除の適用上、アイルランドの経済開発を促進するための特別の奨励措置であつてこの条約の署名の日に実施されているもの又はその修正若しくはそれへの追加としてアイルランドの租税に関する法令に将来導入されることがあるものに従つて一定の期間免除又は軽減が行われないとしたならば納付されたであろうアイルランドの租税は、法人によつて納付されたものとみなす。ただし、両締約国の政府が当該奨励措置によつて納税者に与えられる特典の範囲について合意することを条件とする。

3 この条の規定の適用上、アイルランドの居住者である個人が連合王国内の源泉から取得する所得は、当該所得に対し連合王国の所得税が課されない場合には、アイルランド内の源泉から生ずる所得とみなす。

第二十五条

1 アイルランドの居住者である個人は、日本国の所得税に関し、日本国の居住者でない日本国民が受けることがある人的控除、救済及び軽減と同一の人的控除、救済及び軽減を受ける権利を有する。

2 日本国の居住者である個人は、アイルランドの所得税に関し、アイルランドの居住者でないアイルランドの市民と同一の人的控除、救済及び軽減を受ける権利を有する。

第二十六条

1 一方の締約国の国民は、他方の締約国において、同様の状況にある当該他方の締約国の国民が課されており又は課されることがある租税又はこれに関連する要件以外の又はこれらよりも重い租税又はこれに関連する要件を課されることはない。

2 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設に対する租税は、当該他方の締約国において、同様の活動を行う当該他方の締約国の企業に対して課される租税よりも不利に課されることはない。

  この規定は、一方の締約国に対し、自国の居住者に認める租税上の人的控除、救済及び軽減を他方の締約国の居住者に認めることを義務づけるものと解してはならない。

3 一方の締約国の企業であつてその資本の全部又は一部が他方の締約国の一又は二以上の居住者により直接又は間接に所有され又は支配されているものは、当該一方の締約国において、当該一方の締約国の類似の他の企業が課されており又は課されることがある租税又はこれに関連する要件以外の又はこれらよりも重い租税又はこれに関連する要件を課されることはない。

4 この条の規定は、アイルランドに対し、次の法律の規定に従つて認められる軽減又は免除をアイルランドの法人に関する法令に基づいて設立され、かつ、所得税の課税上アイルランドの居住者である法人以外の法人に認めることを義務づけるものと解してはならない。

(@)   ある種の鉱山の利得に対する租税の一時的減免に関する千九百五十六年財政法(千九百五十六年第八号)(その後の改正を含む。)

(A) 千九百六十七年所得税法(千九百六十七年第六号)第二十五部第二章(その後の改正を含む。)

5 この条において、「租税」とは、すべての種類の税をいう。

第二十七条

1 一方の締約国の居住者は、いずれか一方の又は双方の締約国の措置によりこの条約に適合しない課税を受け又は受けるに至ると認める場合には、それらの締約国の法令で定める救済手段とは別に、自己が居住者である締約国の権限のある当局に対しその事案について申立てをすることができる。

2 権限のある当局は、1の申立てを正当と認めるが、適当な解決を与えることができない場合には、この条約に適合しない課税を回避するため、他方の締約国の権限のある当局との合意によつてその事案を解決するように努める。

3 両締約国の権限のある当局は、この条約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義を合意によつて解決するように努める。両締約国の権限のある当局は、また、この条約に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができる。

4 両締約国の権限のある当局は、2及び3の合意に達するため、直接相互に通信することができる。

第二十八条

1 両締約国の権限のある当局は、この条約を実施するため、この条約の対象である租税に関して詐欺を防止するため、又はこれらの租税に関して脱法に対処することを目的とする法規を実施するために必要な情報(両締約国のそれぞれの税法に基づき行政の通常の運営において入手することができるもの)を交換する。このようにして交換された情報は、秘密として取り扱うものとし、この条約の対象である租税の賦課若しくは徴収又はこれらの租税に関する不服申立てについての決定に関与する者(裁判所及び行政機関を含む。)以外のいかなる者(裁判所及び行政機関を含む。)にも開示してはならない。

2 1の規定は、いかなる場合にも、一方の締約国に対し、次のことを行う義務を課するものと解してはならない。

(a)  当該一方の締約国又は他方の締約国の法令又は行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとること。

(b)  当該一方の締約国又は他方の締約国の法令の下において又は行政の通常の運営において入手することができない資料を提供すること。

(c)  営業上、事業上、産業上、商業上若しくは職業上の秘密若しくは取引の過程を明らかにするような情報又は公開することが公の秩序に反するような情報を提供すること。

第二十九条

 この条約のいかなる規定も、国際法の一般原則又は特別の協定に基づく外交官又は領事官の租税上の特権に影響を及ぼすものではない。

第三十条

1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限り速やかにダブリンで交換されるものとする。

2 この条約は、批准書の交換の日の後三十日目の日に効力を生ずるものとし、次のものについて適用する。

(a)  アイルランドにおいては、

(@)   この条約が効力を生ずる年の四月六日以後に開始する各賦課年度の所得税(付加税を含む。)

(A) この条約が効力を生ずる年の四月一日以後に開始する各事業年度の法人利潤税及びその日に現に継続中の各事業年度の残存期間の法人利潤税

(b)  日本国においては、

この条約が効力を生ずる年の一月一日以後に開始する各課税年度の所得

第三十一条

 この条約は、無期限に効力を有する。ただし、いずれの一方の締約国も、この条約の効力発生の日から五年の期間が満了した後に開始する各年の六月三十日以前に、外交上の経路を通じて他方の締約国に対し書面による終了の通告を行うことができる。この場合には、この条約は、次のものについて効力を失う。

(a)  アイルランドにおいては、

(@)   その通告が行われた年の翌年の四月六日以後に開始する各賦課年度の所得税(付加税を含む。)

(A) その通告が行われた年の翌年の四月一日以後に開始する各事業年度の法人利潤税及びその日に現に継続中の各事業年度の残存期間の法人利潤税

(b)  日本国においては、

その通告が行われた年の翌年の一月一日以後に開始する各課税年度の所得

 

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、この条約に署名した。

 

 千九百七十四年一月十八日に東京で、本書二通を作成した。

 

日本国政府のために

大平正芳

 

アイルランド政府のために

クリストファー・P・フォガーティ


所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約の効力の発生

〔昭和四十九年十一月二十日号外外務省告示第二百十四号〕

 

 昭和四十九年一月十八日に東京で署名された所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約の批准書の交換は、昭和四十九年十一月四日にダブリンで行われた。よつて、同条約は、その第三十条の規定に従い、昭和四十九年十二月四日に効力を生ずる。

 


所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約に関する書簡の交換

〔昭和四十九年十一月二十日号外外務省告示第二百十五号〕

 

 昭和四十九年一月十八日に東京で所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約が署名された際、次の同条約第十七条及び第二十条に関する書簡並びに同条約第二十四条に関する書簡の交換がアイルランド政府との間に行われた。

 

 

 

(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約第十七条及び第二十条に関する交換公文)

 

(アイルランド側書簡)

 

(訳文)

 書簡をもつて啓上いたします。本使は、本日署名された所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のためのアイルランドと日本国との間の条約に言及するとともに、両政府間で到達した次の了解をアイルランド政府に代わつて確認する光栄を有します。

1 条約第十七条の規定に関し、法人の役員の報酬で管理的又は技術的性質の日常の任務の遂行につき当該法人から取得するものについては、これを勤務についての被用者の報酬とみなし、「雇用者」とあるのは「法人」として、第十六条の規定を適用する。

2 条約第二十条2の規定に関し、「によつて設立された基金から」は、退職年金が、一方の締約国によつて直接支払われないが、当該一方の締約国若しくはその地方公共団体によつて設立された別個の基金又は当該一方の締約国若しくはその地方公共団体が拠出した別個の基金から支払われる場合を対象とする。

 本使は、更に、閣下が前記の了解を日本国政府に代わつて確認されるよう要請する光栄を有します。

 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。

 千九百七十四年一月十八日に東京で

 

日本国駐在アイルランド特命全権大使

クリストファー・P・フォガーティ

 

日本国外務大臣

大平 正芳閣下

 

(日本側書簡)

 

(訳文)

書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

 

(アイルランド側書簡)

 

本大臣は、更に、閣下の書簡に述べられた了解を日本国政府に代わつて確認する光栄を有します。

本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。

 

 千九百七十四年一月十八日に東京で

 

日本国外務大臣

大平 正芳

 

日本国駐在アイルランド特命全権大使

クリストファー・P・フォガーティ閣下

 

 

 

(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約第二十四条に関する交換公文)

 

(アイルランド側書簡)

 

(訳文)

 書簡をもつて啓上いたします。本使は、本日署名された所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のためのアイルランドと日本国との間の条約第二十四条2(c)の規定に言及するとともに、同条2(c)にいう「アイルランドの経済開発を促進するための特別の奨励措置であつてこの条約の署名の日に実施されているもの」とは、アイルランドの法律の次の規定に定める措置をいうことを両政府の間で合意することをアイルランド政府に代わつて提案する光栄を有します。

(a)  ある種の鉱山の利得に対する租税の一時的減免に関する千九百五十六年財政法(千九百五十六年第八号)(改正を含む。)―ある種の鉱業から生ずる利得に対する法人利潤税の減免

(b)  千九百五十六年財政法(千九百五十六年第四十七号)第三部(雑則)(改正を含む。)―ある種の物品の輸出から生ずる利得に対する法人利潤税の減免

(c)  千九百五十八年財政法(千九百五十八年第二十八号)第二部(雑則)(改正を含む。)―シヤノン空港内での営業から生ずる利得に対する法人利潤税の減免

(d)  千九百六十七年所得税法(千九百六十七年第六号)第二十五部(改正を含む。)―ある種の鉱業、ある種の物品の輸出及びシヤノン空港内での営業から生ずる利得に対する所得税の減免

 本使は、更に、この書簡及び日本国政府による前記の提案の受諾を確認する閣下の返簡が前記の条約第二十四条2(c)の規定に基づく両政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。

 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。

 

 千九百七十四年一月十八日に東京で

 

日本国駐在アイルランド特命全権大使

クリストファー・P・フォガーティ

 

日本国外務大臣

大平 正芳閣下

 

(日本側書簡)

 

(訳文)

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

(アイルランド側書簡)

 本大臣は、更に、閣下の書簡に述べられた提案を日本国政府が受諾することを確認するとともに、同書簡及びこの返簡が前記の条約第二十四条2(c)の規定に基づく両政府間の合意を構成するものとみなすことに同意する光栄を有します。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。

 千九百七十四年一月十八日に東京で

 

日本国外務大臣

大平 正芳

 

日本国駐在アイルランド特命全権大使

クリストファー・P・フォガーティ閣下